Vol.1 提灯に込められた感謝の心

眼力さんにまつわる「人」の「心」がこもったゆかりの「モノ」をテーマにした、ちょっといいお話をご紹介します。

提灯に込められた感謝の心
和田龍氏奉納の提灯 狐さま 鳥居の石版

提灯に込められた感謝の心

眼力さんのお賽銭箱の前で、お供え物を置いたあと、鈴を鳴らそうと幾重にも束ねられた色とりどりの鈴の緒を掴む。緒の先に眼をやるとまばゆいばかりの金塗りの提灯が一対、視界に飛び込んできます。細やかな伝統彫刻で装飾されたその金塗りの提灯は、大阪の北浜にある証券会社に歩合外務員として勤める和田 龍氏により奉納されたものです。

眼力社正面

バブル崩壊の後、長い低迷を続けた日本の株価は、再びITバブルにより活気を取り戻したようにみえました。
しかしそれも2000年の20,830円を天井にまたもや下降していきます。株価はバブル崩壊当時の底値14,000円台を下回り、とうとう10,000円以下にまで下落してしまいました。以前のバブル崩壊時を凌ぐ株価の激しい下落に、投資家や証券会社社員は大変苦しい状況に陥っていたそうです。

和田さんも株価低迷に頭を抱える証券マンの一人でした。連日の株価下落に、大切なお得意様の資産が激減してゆくなか、和田さん自身の収入も大幅に下がってしまい、同僚たちは大半が会社を去ってしまいました。
和田さんは、阪神・淡路大震災で家や車をはじめとする多くの財産を失い、続いてITバブル崩壊により、生活のためにアルバイトを強いられたこともあったそうです。

そんな和田さんが、この悪夢のような転落から抜け出たのは、眼力さんにお詣りするようになってからでした。
毎日途方に暮れてばかりでは始まらないとばかりに、商売の神さまで有名な伏見稲荷の稲荷山へお詣りをはじめた和田さんでしたが、稲荷山には無数のお社があり、どの神さまをどのようにお詣りすればよいのかさえわかりませんでした。
最初は、お社というお社に塩を少しづつお供えしていましたが、お供え台の木が傷むということで、塩のかわりに5円玉をお供えすることにしました。それを少し続けていましたが効き目が無いので今度は10円玉にしてみましたが、やはり何のご利益もありませんでした。

「そうだ、お稲荷さんだから、おあげがいいのかも?」

と、小さく切ったおあげをプラスチック容器に入れて運び、お供えするようになりました。

おあげのお供え

そんなある日のこと、いつものように次から次へと、お社におあげをお供えしていた和田さんは、眼力さんのところまで来たとき、ふと、狐の形をした手水に目が止まりました。山から駆け降りてきたような格好で、口にくわえた竹筒から水を流しているその狐像が汚れていることが、なぜか気になったそうです。もう何年も月参りをしているのに、今までどうして自分は気付かなかったのだろう?と首をかしげました。
ちょうどその時、眼力さんを代々お守りしている服部さんが店の戸を開け出てきました。服部さんと眼があった和田さんはつい、

「この狐さんを磨かせてください」

と申し出てしまいました。

それを切っ掛けに和田さんは、お山に来ても、他のお社には寄らずに、毎月欠かさず眼力さんのところだけに直行し、狐像を磨くようになったそうです。

狐さまを磨く和田さん

和田さんは、あのときなぜ狐像を磨かせてくださいと言ってしまったのか、今もよくわからないといいます。でも、眼力さんをお詣りし、狐さんを磨いて帰りの山を下りだすと、全身に気合いが入り、気分が爽快になるのだそうです。すると毎日の辛いことも大したことがないように思えてくることが、苦しかった当時の和田さんには、たいそう嬉しかったそうです。
やがて日経平均は2003年4月の7600円台を大底に切り返し出しました。その後2004、5、6年と上昇を続けるに至り、ようやく投資家たちにとって苦しい冬の時代に終わりを告げることができました。

狐像の作者●和田さんが磨いた狐像のおなかから、
なんと作者の名前が読み取れた。
鋳物師 今村久兵衛といえば大阪城の
シャチホコの作者として有名。

「人生で、あんなに苦しかったことは希でした。そこから抜け出せたのは全て眼力さんのお陰だとは言わないが、眼力さんとの出会いがあったからこそ、辛いときを耐えることができたのだと思う」

そう語る和田さんは、祈願成就のお礼に金塗りの提灯を奉納されました。人生の苦しいときを、乗り越えることができたことへの感謝を込めた提灯です。
和田さんの好きな言葉は「謙虚と感謝」。和田さんはその言葉どおり、提灯を奉納された後も、眼力さんのおみやげ物の型起こしや、狐像の修繕にかかる費用を御負担されているそうです。

眼力さんに永年お詣りに来ていた方々は高齢になり、若い世代の方は元々あまり訪れないということから、眼力さんにお詣りする人が、年々減っているそうです。

こだわりの和紙●眼力社みやげの書に使わている和紙も
和田さんが苦労して相当良い物を探してこられた。

「眼力さんが無くなったら、私も困りますが、あの無数に並ぶ鳥居を奉納した方たちは、もっと困るんです」

そう心配する和田さんは今年五十五才。眼力さんと、眼力さんをお詣りに来る方々のために、自分ができることは少しでもやりたいと願い、毎月一回、狐さんを磨きに眼力さんを訪れます。

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〒612-0804 京都市伏見区稲荷山官有地19 眼力大社前 TEL(075)641-6051 (服部)
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