どれだけ込めたか
眼力さんへお参りに訪れると皆、慣れた人にも初めての人にも分け隔てのない服部さんの明るい笑顔に迎え入れられます。それは“来て良かった”と誰もが思う瞬間でしょう。でもその日、服部さんの笑顔にはいつになく陰りがありました。
「毎月のようにお参りだった方が、体調を崩されはったそうなんですよ」
寂しそうに話す服部さんの気持ちが伝わります。
熱心に眼力さんへお参りを続けられてきた方の体調が思わしくない、しかもそれは高齢の方だということですから、服部さんが心配で元気を無くされるのは無理もありません。
服部さんはその方のために眼力さんに一生懸命お祈りをされました。でももっと何かできることはないか?という気持ちに駆られ、いろいろと考えてはみるものの何をすればいいのかわかりません。そうしている間もその方の体調がさらに悪化してしまうのではないかと不安でならなかったそうです。
とうとう居ても立ってもいられなくなった服部さんは、その方に電話で尋ねられたそうです。
「心配で仕方ありません。何かできることはありませんか?」
その方はお見舞いの言葉をいただいたことをたいそう喜ばれたそうです。でも服部さんの申し出は優しい口調で拒まれました。
「どうか取り立てて何かをしようと思わないでください。
あなたはあなたが今できることをしてくれれば良いのです。
それが私にとって一番嬉しいことです」
服部さんができることはまず祈ること。服部さんはその日以来、それまでに増して熱心にその方のことを眼力さんに祈り続けたそうです。
東日本大震災では被災地へ十分に協力できないことを悩む方も多く、なかにはそのことで心のバランスを崩してしまう方もおられたようです。思いやる心は大切ですが、それがもとで自分を追い詰め、心を病んでしまっては元も子もありません。
「自分はこんな事しかできない…。何も満足にはできない…。そんなふうに自己嫌悪になることなど、してもらう方は望んでないし、むしろ困らせてしまうんですよ。
今できることを無理なくすること。それが相手にとって一番なんやねえ」
そう話す服部さんはこう付け加えました。
「“どれだけのことをしたかよりも、どれだけ心を込めたか”それが肝心、 そして心を込めた気持ちは必ず相手に通じるんです…」
服部さんのその言葉を裏付けるかのように、それから幾月を待たずして、その方の体調が持ち直したという吉報を聞くことができました。
そしてもうその頃には、眼力さんへの参拝者を迎える服部さんの笑顔にも、以前の明るさがすっかり戻っていました。
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